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2008年09月05日

親父(3)



育ち盛りの子供四人の夕餉は、御数の争奪戦だ。
小間切れ肉の御数で「お兄ちゃんのが多い。お前の方が大きい!」と御膳を挿(はさ)んで言い争う。
酒と鰹(かつお)の刺身で、仕事のトラブルを紛らわしている親父の目がとろんとしてくる。
「喧しい!」と怒鳴り声と同時に御膳が引っ繰り返る。
ご飯と御数は吹っ飛び、茶碗と皿は割れ、板の間の部屋はぐしゃぐしゃの有様である。
おふくろの「さあさあ、お前たちあっちの部屋にいきな」との追い立てにしょんぼりしながら移動した。
親父は何事もなかったように、一升瓶に手を伸ばしコップ酒である。
溜息を吐きながら、後片付けをしているおふくろの姿が痛々しかった。
しかし、それは、子供たちの成長に伴い通用しなくなった。
月日が流れたいつもの夕餉であった。
親父は眉間に皺寄せ熱燗で、ちびりちびりと飲んでいた。
五歳の弟が、駄々をこねながら膳の周りを走り回った。
親父が舌打ちをして膳に手を掛けようとした時、兄と私は御膳の両端を両手で押えこんだ。
御膳はびくともしなかった。
親父は兄と私をにらみつけ「外で飲んでくる!」と捨て台詞を残し出て行った。
それ以後、膳は宙に舞わなかった。
私も仕事のことで苛々しながらビールを飲んでいた時、兄弟喧嘩の声に「ぽかっ、ぽかっ」と手が出た。
しかし、その手も受け止められたり、かわされたりしてから出なくなった。
その二男も大学生になった。
居酒屋でバイトをして部屋代を稼いでいる。
夏休みに帰郷した時、津駅に迎えにいった。
車中で何を言い出すかと思いきや、私と長男の三人で酒を酌み交わしたいと云う言葉に、私は目を細めた。
同じ仕事に就いた親父と、鰹の刺身を肴にして一献傾けたかった。
愚痴をこぼしながら…。
叶わないことではない。
いつの日か定かではないが、彼(あ)の世に行ってからゆっくりと、盃を酌み交わしながら語り明かすそうと思う。。
続く

追記

幼い時の私の息子たちです。
酒を酌み交わす日は遠くないと思う。


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